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2009年10月20日 (火)

物語(12) 仕事3日目

今日から電気室と機械室の点検は僕一人だ。
点検に出かけようとすると、係長の机のTELが鳴った。
2Fの女子トイレが詰まっているそうな。
--それって設備の仕事ですか?
「給排水だから設備だよ」
加藤さんはラバーカップ(棒の先に吸盤がついている道具)と真空掃除機(*)を取り出して僕を誘った。

--トイレの詰まりに掃除機?
「便器に何か詰まっていて掃除機で吸い取れる場合がある。床が汚れている場合もな」

*真空掃除機は通常の家庭用掃除機と異なり、バキュームの原理なので吸引力が強い。
 しかもほとんどは水も吸い取ることができる。家庭用と比較して少しサイズ的には大きくなるが
 これまでの家庭用掃除機で満足できない方にはお勧め。価格も¥1万以下がほとんど。

2Fのトイレに到着。
--うっ
便器が詰まっているというより、溢れているでないの。
しかもトイレットペーバーとウンコが床に散らばり水浸し。

加藤さんは当たり前のようにバキューム掃除機で床に散らばった汚物を吸い取った。
「こりゃペーパーの使いすぎだな」
床がきれいになると、ラバーカップの使い方の見本を見せてくれた。
「やってみるか?」
--ええ---っ(;;)
まだ便器の中はウンコだらけなのに・・・オマケニクサイ
僕は仕方なし渡されたラバーカップを動かしてみた。
「自分に跳ね返ってこないように気をつけて」
--そんなこと言われなくても気をつけるよ。
って、ラバーカップを上下していると詰まりが少しずつ直っていくようだ。
もう一息、とラバーカップを引くと、汚物の水が僕のズボンに跳ね返ってきた。
--浴びちゃった(TT)
加藤さんは言った。「着替えもシャワーもあるから心配するな。そうやって慣れていくんだよ。前にいたヤツなんて”俺は人のウンコ掴んだからもう怖いものはないぞ”って言ってたよ。」

これは僕のやりたかった仕事ではない?
こんな仕事誰もやりたくない。
そう思う僕の気持ちを見透かしたように加藤さんは言った。
「みんなが嫌がる事だからお金をもらえるんだよ」
--そうかも知れない。確かにそうだ。だけど・・・

便器の詰まりが直ると水はきれいに流れるようになった。
作業服の着替えを渡されて、シャワーを浴びた。ウンコ水が付着したところは丹念に消毒してから
何度も石鹸でこすった。
--他のバイトを探そう。
僕は加藤さんに今日限りで辞めさせてもらうように言おうかどうしようか考えていた。
とりあえず直ぐに他のバイトが見つかるかどうかは分からない。
せっかく2日間仕事を教えてもらって悪いような気がするけど・・・

シャワー室から出ると加藤さんが立っていた。
「お客さんだよ」
指差した方を見ると小俣君が車椅子に乗って近づいてきた。
「今日、昼休みにまたゲームしませんか?」
--この子との付き合いも今日が最後かも。まあ、いいか。
「今日は何が良いですか?」
--何のゲームでも、とくるか?囲碁なら俺は2段やってやろうか?
--君、囲碁はできるの。
「ルールくらいしか分かりません。TVの囲碁講座を見ていただけで、対戦は加藤さんに2回くらい相手してもらっただけです」
(そういえば加藤さんも囲碁をやるとか言ってたな)
--じゃ、教えてあげるよ。
小俣君は満足したように戻っていった。

それから午前中は電気室と機械室の点検で終わった。

昼休み。
小俣君に囲碁を教えた。
--って、これが3回目の対戦?
碁石を持つ手つきもぎこちないし、定石もよく知らないから1手ずつで考えるが
さすがに勝負勘は良いようで9目(囲碁の用語でハンディ:弱いほうが先に9つの石を置く)おかして
完敗。4目置かせてかろうじて俺が勝った。
--オセロや将棋はともかく、囲碁では負けないよ・・
って思えなかった。この子は直ぐに俺を追い越す。それは分かる。
小俣君の形勢が悪くなった時に涙ぐんでいた。

「金田さん、明日も教えてもらえますか?」
(--おお、”おじさん”じゃなくてやっと金田さんになったか!)
気分が良いのですぐさま
--良いよ。
と答えた瞬間、今日バイトを辞めるのは延期か?と後悔した。

午後は蛍光灯の交換のTELがあって交換した。
--って、交換してもちらついている。
「これ、何とかならないかね?」と職員の人に言われた。
部屋に戻って趙さんに相談した。
「それは安定器だな。交換してみて」
安定器は知っている。だけど僕のやっていた電気工事は新築の家ばかりで
器具と取り付けるだけで安定器の不良は修理経験がない。
僕が不安に思っていると、それが顔に出たのだろうか、
「一緒にやろうか?」
と言ってくれた。

棚には200V40W2灯用の安定器他1灯用が山積みにされているのを初めて知った。
安定器そのものをじっくり見るのは初めてだ。
現場に行く。
「まず、電源を切断する。ショートしないようにテープ巻きは分かるよね?」
--分かります。
え?活線?(他の蛍光灯はつけたままにせねば困るので電源は入ったまま)
僕は慎重に電源コードを切断してテープを巻いた。
それから青・赤・黄のコードを切断し、古い安定器をはずす。
「Bはブルーだから青、Rは赤、Yは黄色にそれぞれつなぐ。」
--で、このHとNというのは何ですか?
「HはHOTだから電源の黒、Nはニュートラル。」
--なるほど、そういうことだったのか。
それを納得してからは、かなり手早く交換ができた。

蛍光灯をさしてみる。点いた!
初めての仕事がうまくいくと嬉しい。
先ほどの職員の人も、「よかったわ~これで」
と言ってくれた。

やっぱりこれが仕事の喜びなんだろうか?

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