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2009年10月24日 (土)

物語(13) 2週間後

2週間後、何故か僕はまだ福祉センターにいた。
それは加藤さんや趙さんに助けられながら仕事をしていたこともあるし、
小俣君との新しい関係ができたこともあるし
何より、新しいバイト先が見つけられなかったこともある。

電気室や機械室の点検のほかにたくさん仕事を教えてもらった。
掲示物をつけたいから壁にフックをつけて、と言われてもコンクリートの壁が相手じゃ画鋲がさせない。
そんなときは電動ドリルでコンクリートビスを先端につけて穴を開けるのだと、教わった。
いつの間にかドアの開閉が硬くなっている入り口のドアクローザのないドアは「フロアヒンジを調整するんだよ」と教わった。
排水がつまり気味の流し台。バキューム掃除機で吸い出してもうまくいかない場合--廊下にある掃除口(廊下に時々ある10cmくらいの
金属の丸いキャップをはずしてフレキシブルワイアー(スネークワイヤーともいう(カンツールは商品名))を使えばよい、ということも教わった。
だから毎日、教わるばかり--つまりこれからしばらくこの職場にいる、と期待されている、という意味でなかなか言い出せなったこともある。

小学生の小俣君は図書室の囲碁の本を勉強しているようで、最初は4目置かして僕が勝っていて
偉そうに教えていたのだが、最近は4目ではかなわなくなり3目になって互角。
僕を追い越すのは時間の問題だと思うのだが、相手していて楽しい。

で、今日は恐れることが生じた。
加藤さんから「どうしようもない時は便器をはずすしかない」と言われていたのだが本当にそうせねばならなくなった。
便器が詰まっている、というのでラバーカップで一度は流れるようになったのだが
2時間後にまた詰まっているという。
そしてまたラバーカップで流れるようにしたのだが、また1時間後に詰まったという。
お手上げ。
加藤さんに報告した。
「そりゃ何か詰まっているな。便器をはずしてみようか」
--ええっ、便器を外す??@_@
--それって便器を手で持ちあげるということでしょ??
「ゴム手袋をすれば大丈夫」
って、ちっとも大丈夫じゃないじゃん。
--どこかの業者にやってもらえばいいんじゃないですか?
「俺たちがその”どこかの業者”なんだよ」
福祉センターの設備の仕事はセンターの職員ではなくて、下請けの僕のバイト先の○△サービスとかいう会社なのでした。

便器を動かすときに気をつけていたのだが、どこから入り込んだのか知れないけど、ゴム手袋の中が濡れている。ゲーーッ!!
手袋のどこかが破れていたのか、それとも・・・??

そう思っている俺を全く知らないような加藤さんは便器の配管類のナットを外して
「便器って陶器だから扱いに気をつけないと割れちゃうよ」と僕に便器を持たせた。
だから便器を運ぶには両手だけでなくて、しっかり”抱っこ”しなければならない。
作業服につけなないように。って、重いから付くじゃないの!!

それから下の水道に持っていって、何と便器を横にして排水側(つまり便器の下から)ホースで水を注入した。
加藤「これはサイホン式だから途中で何か詰まっている場合は逆からじゃないと詰まっているものが流れ出てこないんだよ・・・」
しばらく逆から水を押し流しているとボールペンがコロッと転がってでてきた。
「こういうものを落としてしまったら流さないで拾って欲しいよね。でなければ拾わなくて良いからせめて流す前に連絡して欲しいよね。
普通の人はそのまま水の勢いで流れると思って流しちゃんだよ。おかげでこんなに面倒になる。
でも知らない人は仕方ないよね」
--仕方ないで済むか!
って、たしか昔に僕も便器にトイレットペーバーの芯を流したことがあるのを思い出した。
その時は”流しちまえ」と思った。吸い込まれるような気がしたが、芯の頭が見えたままで
僕はその場を去った。
今から考えると、ボールペンでさえ詰まり、誰かがこんなに便器を外して直さねばならないことを
考えると悪いことをした、と思った。

--でも、便器を掃除するって、バイトの俺の仕事??

そして、加藤さんは何事もないように便器を元の場所に持って行って、ガスケット(Pシールともいう=便器の下のパッキンのようなもの)を
素手で--って、粘土のようなこんなパッキンはゴム手袋じゃできないわな)を丁寧に取り付けて、元に戻した。
そして洗浄水がうまく流れることを確認すると「復帰したね、完了!」と加藤さんは言った。
僕の思いは完了していない。たくさんの人が使っている便器を素手で触るなんて真似できない。
僕にはこのバイトはできない。

俺はその後、一所懸命に手を消毒した。

今日でこのバイトは辞めよう。そう思っている僕の心境を悟ったように加藤さんが言った。
「今日、一緒に飲みに行こうか?」
そのお誘いはちょうど良いかも。今日限りで辞めることも宣言するちょうど良いきっかけだ。
17時過ぎに加藤さんとモツ焼き屋で呑んだのでした。

  ---続く

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